もうだいぶ時間が経っていた。
いよいよ開演時間が迫ってきている。
生温いビールもこれで二杯目だ。
フロアには待ちに待った来日を祝うように
若者たちと、昔、若者たちだった人たちがソワソワしながら
開演前のSE「Just from chervon」で軽やかに体を揺らしている。
「KICK SNARE & THE HI-HATS」
の来日は8年ぶり、今年初めにリリースしたNEWアルバムを引っ提げての
ワールドツアーで、そのNEWアルバム「Songs for Cemetery(邦題:死にゆく者たちへの歌)」
はPitchfolkやN.M.Eでも高評価を得た傑作だった。
だとすれば、今回の一夜限りの来日公演は、何があっても見に来なければならなかった。
なのに、待ち合わせ時間をだいぶ過ぎているのに、ヤツはまだ来ない。
とりあえず、このビールを飲み終えたらヤツが来なくても、もうフロアに向かおう。
もちろん、新たなビールを買ってから…。
=ズィビトンパ、ズィビトンパ=
お馴染みの音が聞こえてきた..。
入り口のほうを見ると
ヤツが汗だくで入ってきた。
一瞬誰だか分らなかった。
ヤツは普段、緑色の体をしているが、今日は真っ黒だったからだ。
「遅せーよ!もう始まるぞ..!ワルクシャー」
「悪ぃ悪ぃー、ノートン!お葬式が長引いちゃって。。」
「あ、それで体が黒いのか。」
「そうなんだよ、喪服仕様なんだ」
「ノートンも今日はちょっと派手だな!」
「そう、ライブだから赤いとこと青いとこを蛍光にしてみたよ」
そう、僕らの体にはそれぞれ色が付いている。
ワルクシャーは緑色で、俺はトリコロール(赤、青、白)だ。
=ジャンシャルラン、ジャンシャルラン=……..
俺の名はスィヴィル・ノートン。
髪の毛は細い鎖でできている。
主食はグミだ。
そして、相棒のビルビブデボウ・ワルクシャーは
俺の小学校からの幼馴染で、現在恋人募集中の腕利きのドラマーだ。
そして、何を隠そう…….
ワ・レ・ワ・レ・ハ、
ウ・チュ・ウ・ジ・ン・デ・ア・ル!!
ワルクシャーと俺は急いでビールを買い、フロアの扉を勢いよく開けた。
と、その直後、客電は落ち、歴史的瞬間の連続が始まった….
~つづく~